top of page

今、日本で最も勢いがあるシューズブランド「KIDS LOVE GAITE」に迫る

イギリスのトラディションを独自の目線で描き出すシューズブランド「KIDS LOVE GAITE」
。キャッチーな名前、クラフト感を醸し出す正確無比さを武器に日本で活動を続けて16年。同ブランドデザイナー山本真太郎の引き出しには、アンチや毒っぽさといった要素も綺麗に整理され、氏が加えるエッセンスは時に我々の想像を愛撫するかのようなアイロニーを演出する。コムデギャルソンを筆頭に、名だたるブランドからのラブコールがやまないKIDS LOVE GAITEとは一体、何者なのだろうか。

"イギリス"や"アンチ"をキーワードに

ーまず初めに、ブランド名”KIDS LOVE GAITE”に込められた意味を教えてください。

この名前は、あるタトゥーアーティストの方から名付けました。僕は90年代をイギリスで過ごし、彼とはその時に出会い、とてもお世話になりました。たくさんの影響も受けていましたが、ブランドを立ち上げるちょうどその年に亡くなってしまいました。そんな経緯もあり、彼のペンネームである”KIDS LOVE INK”をトリビュートする形で名付けました。”KIDS LOVE”の部分と、歩き方や行進を表すスラング用語である”GAITE”を組み合わせて、”KIDS LOVE GAITE”です。

ーKIDS LOVE GAITEではどのようなコンセプトを大きく掲げているのでしょうか?

靴は器具種であるといった前提の元、そこにどう存在感を出すか、どうアイデンティティを出すかといったことを意識していますし、コンセプトの一つでもあります。靴は洋服とは少し違いますし、幅も狭い中で、”イギリス”や”アンチ”といったキーワードも根幹にはあるかもしれないです。

ーブランドとしては定番とコンセプチュアルラインの2つに加え、他ブランドとのコラボレーションも重要な軸であると思います。コムデギャルソンやソロイストなど、どのような経緯でコラボが実現しているのでしょうか?

まずインラインに関しては、ここ16年間ほぼ変わらないスタイルで継続しています。僕自身のベースには常にファッションがありましたし、そんな目線の中で気になるブランドも多くありました。僕が見ていると相手のブランドも認知してくださることが多く、この頃はコムデギャルソンを皮切りに、コラボレーションの幅が広がった感覚があります。川久保さんとは13年ほど前に知り合い、当時オープンしたトレーディングミュージアムで僕の靴をピックして頂きました。24SSのタイミングで久しぶりに連絡があって、靴の製作を依頼していただきました。ソロイストに関しては、ブランドが始まってから何度か展示会にお邪魔していました。宮下さんとは元々の知り合いで、プライベートでの付き合いもあり自然とコラボに繋がりました。

ーそのような取り組みを経て、先ほどの”アンチ”のキーワードや、”ギャップ感”、”攻めたデザイン”がさらに飛躍しているように見受けられます。他のブランドと混ざり合うコラボレーションにおいて、意識されていることを教えてください。

どうして僕を選んでくれたのか、ここに向き合うことがスタートになります。それには相手の考え方やコレクション、人柄などにも向き合う必要があります。相手が作りたいものを僕のフィルターを通して表現するため、相手をあらゆる角度から汲み取ることは非常に大切にしています。特に川久保さんからは具体的なことよりも内にある感情や考え方を伝えられることが多いので、その意識が活きてきます。

(THE VAN)24SSのコムデギャルソンとのシューズは衝撃的でした。

このシューズに関しても、奇想天外な見た目もありつつ、靴として成立するものといった漠然とした提案から始まりました。ファッションとして成り立つことも頭に入れ、それでも服のイメージは伝えられないので、川久保さんの言葉や表情などを汲み取りつつ、絵型に写していきました。


あの時間がなければ今の自分はない

ー続いては、山本さん自身に関する質問に移りたいと思います。15歳から渡英された山本さんですが、洋服や靴に対する考え方について、日本とイギリスとで違いを感じることはありますか?

当時のイギリスではアイデンティティをどう出すか、この考えが格好や履き物、生き方にまで影響していたと感じます。それが日本人よりかは、自然と表現されていたと思います。だからこそ、自らの手で何かを作り出すことも自然なことでした。街に落ちているものを形を変えて着てみたりなど、クラフト感への意識はイギリスの方が強いです。僕が作る革靴においても日本人が感じる履きづらさなどの抵抗もないですし、クラークスやドクターマーチンといった靴も日常的に履く人が多かったですね。

ーイギリスでの生活において、山本さんにとって馴染み深い場所である「ハウスオブビューティーアンドカルチャー」はどのような場所だったのでしょうか?

ハウスオブビューティーアンドカルチャーはジョンムーアを中心に、クリストファーネメスやジュディブレイムといったデザイナー、アーティストが作り上げた場所です。そこにはジョンムーアのハンドメイドの靴など、一点モノの作品のみが並んでいるイメージです。”お店”としての機能はあまりしていなかったので、僕が知った頃にはすでに無くなっていました。その後、そこを引き継ぐ形でイアンリード(ジョンムーアの当時のアシスタント)が「オールドキュリオシティショップ」を立ち上げ、僕はそこを作り上げる段階から丁稚奉公として携わり、自然と靴作りもやり始めました。

(THE VAN)素晴らしい環境に飛び込んだのですね。

すごく濃い時間でした。もちろん他にもありますが、そこで丁稚奉公をしていた期間が自分にとって一番大切です。色々な考えや自由な感覚を持つ人が集まる環境で、様々なカルチャーが生まれる場所だったので、毎日刺激や影響を受けていました。あの時間がなければ今の自分はないと思ってますし、そのぐらい重要な場所と時間でした。

ー山本さんは今話題のシューズからも影響を受けるのでしょうか?キココスタディノフやアシックス、バレンシアガなど実験的でユニークなブランドのシューズが増えており、若者を中心とした注目度も非常に高いと感じています。

僕が意識しているクラフト感と比較して、今挙げていただいたようなブランドのスニーカーに注目すると、製造過程といった点で異なると思います。そのようなブランドの面白いところは金型ベースから生まれる幅広いデザインです。金型ベースはフィギュアなどを作る感覚で、立体化させる工程に違いがあります。バレンシアガのような大きさのあるものなどは面白いと思いますが、僕の作品自体には影響していません。それよりかは、作ってみたいといった興味の方が強いと思います。

ーでは、普段はどのようなものがインスパイアとなるのでしょうか?

ほんとに何気ないところからですね。構造やベースは常に頭にあるので、それに加えるアイデンティティの部分は街を歩いてたり、湯船に浸かっている時にふと思うことが多いです。24AWの中側がオレンジのアイテムは、MA-1のナイロンの部分から着想を得ました。偶然街で見かけた人がそのMA-1のマフラーをしていてすごく印象的でしたし、そんなたわいも無いことを解釈して表現しています。

(THE VAN)「時計じかけのオレンジ」や「限りなく透明に近いブルー」の投稿をインスタグラムで拝見しましたが、そのような作品も最終的なインスピレーションに繋がっていると感じます。

そうですね。アンチや毒っぽさをどう出すかといった根底には、その2つの作品から受けた影響は必ず生きていますし、考え方の要素にあると思います。時計じかけのオレンジは当時の上映が禁止されたほどで、反骨心というか、色んなものが詰まった作品だと思います。

ー最後に、KIDS LOVE GAITEはどのようなブランドを目指していくのでしょうか?

まずは、ブランドを持続させることが一番です。無理のない流れで靴作りを続けていき、最終的に日本人の革靴に対するハードルがもっと低くなればいいと思います。スニーカーの様な感覚でどんどん若い方達に革靴の良さを知ってもらって、たくさん履いてもらいたいですし、その思いがこのブランドを通して伝えて行けたら嬉しいです。
 







bottom of page