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「僕のような人はいないと思います。世界に、一人も。」WILDFRAULEINデザイナー、ループ志村はあらゆる世界で自分を描く

洋服とはデザイナーを映し出す鏡なのかもしれない。何を考え、何を経験し、何を目指すのか。それらが豊かであればあるほど、つまり"人"が豊かであればあるほどその手が紡ぐ一枚の布もおのずと立体的に、魅了的に構築されていく。今回、THE VANがインタビューを行ったデザイナー、ループ志村はマルチな方面で活動を重ね、自らの"等身大"をファッションへと昇華している。多くの旅や出会い、そして幼少期の豊富すぎる経験から抱く、彼のファッションイズムとは。彼の表現においても重要な場所Basisにて、その信念に迫った。

絵が音楽に変わり、最終的にファッションに変わっていきます

ー簡単な自己紹介をお願いします。

WILDFRAULEINデザイナー兼Basisオーナーの志村です。洋服を作る時はループ、絵を描く時はフレット、音楽をやる時はジョビという名前で活動していて、それぞれの頭文字を取ったのがもう一つやっているブランド”JFR”です。自分自身レーベルや画廊に所属していたり、芸能活動もやっているので名前を使い分けています。どれも18歳ぐらいの時に作った名前で今も大事にしています。

(THE VAN)18の時から活動されているんですね。

そうだね。その時は古着を家の前で売ったりもしていて、近くの大学生がよく買いにきてくれてたかな。

ー洋服に興味を持ったきっかけは?

中学生の頃に行った高円寺がきっかけです。その時一緒にいた姉に何が欲しいか聞かれたので、1番かっこいいのを選んだらたまたまセックスピストルズのTシャツでした。しかも3万円(笑)。姉はそれを買ってくれましたが、初めは何も分からなかったのでピストルズのアルバムを聴いたり、シドと同じようなスキニーを買って自分でダメージ加工していました。

(THE VAN)ご自身で・・・?

そうだね。建築家の親父が使うやすりや筆、建築資材が家にいっぱいあったので自然と自分でやってみようと思いました。

ーその建築家のお父様を持つ志村さんですが、ご自身も建築に関わったことはあるのでしょうか?

今でもギャラリーの内装を作ったりしてます。それこそ、ここ(Basis)の内装も自分でやっていますし、家具類のラックもハンガーも全部自分で作っています。年間で10回くらいは建築の仕事もするかな。

ー建築とファッション、この2つのワードを聞くとフセインチャラヤンの名が思い浮かびます。彼は建築の他にもアートや科学などの要素を用い、ファッションを包括的かつ構築的に表現することでも有名です。志村さん自身もダンスや絵画、アートなどの芸術に幼少期から触れられてきましたが、チャラヤンのようなアプローチをするデザイナーに影響を受けることはあるのでしょうか?

ある書店でたまたま木梨憲武さんがアートブックを読んでいて、同じやつを読んでみたらチャラヤンを追ってるフォトグラファーの本でした。それが彼を知ったきっかけです。自分自身も1番最初に肉を凍らせて服を作るアートワークをやりましたが、チャラヤンも似たようなことをやっていました。やっぱりお金と関係ないことにも向き合い、最初にビジネスじゃないというか、生きるために着るみたいなところがいいなって思います。

(THE VAN) 他にも影響を受けたデザイナーはいますか?

キムジョーンズかな。彼のファーストコレクションを見た時、すごくカッコ良いって感じました。ナードな感じが当時はあまり理解されていませんでしたが、僕はすごい若手がいるなってなりました。あと自分のルーツになるんですけど、僕が19歳の時に弟子入りした師匠へのリスペクトもあります。彼女はイタリアのトラサルディで働いてた方で、パターンを引くのが上手でしたし、元々絵描きをしていた方でした。ですが当時の自分は洋服を作れなかったので、とりあえず自分の描いた絵をアトリエに持っていき、なんとか認めてもらいました。

(THE VAN) なるほど。絵は今でも描かれていますか?

今はあまり描かないかな。でも絵の構想を思い浮かべることはよくあって、それが音楽に変わり、最終的にファッションに変わっていきます。そのため、JFRはWILDFRAULEINを維持する上で重要なアートワークブランドなんです。


WILDFRAULEINが出会う人々

ーそれでは、ブランドについての質問に移ります。まず初めにWILDFRAULEINの名前の由来についてお聞かせください。

WILDFRAULEINは、僕がオーストリアのウィーンに住んでいた20歳の時にルームメイトに付けて貰った名前です。WILDFRAULEINには「ワイルドな女性」という意味がありますが、当時の僕は髭を生やし、レディースの服を着ていたので、その逆の女性的な男性をイメージしてこの名前が付けられました。またWILDFRAULEINというドイツの童話もあり、その話も大好きです。

ー24AWのテーマ”MEMENTO MORI”にはどのような意味が込められていますか?

今シーズンは、去年亡くなった知り合いの方を題材にしました。その女性はある日チャイナ服のセットアップで突如僕のアトリエに現れて、着たい服があるからとその場で服を着替え始めました。その日から毎日来てくれたんですけど、1ヶ月後には買える服がなくなってしまって。そしたら何が始まったと思う?

(THE VAN) その場で作る・・・?

そう。なのでかなり鍛えられましたね。それから周りの方からのオーダーが増えていき、その人に合ったものがどんどん生まれていきました。恐らくそれは多様性として置き換えることもできますが、僕のマインドにはなかったので、頭の中が混乱してブランドを休止することになりました。

(THE VAN)それから様々な出会いを経て、WILDFRAULEINは今もあるのでしょうか?

そうですね。休止後のとある撮影で一緒になった二人の影響も大きいです。スタイリストとフォトグラファーの彼らは、休止して悩んでいる僕に色々な意見をくれました。その意見の中で人や世間に合わせる必要がないことに気づいて、徐々にWILDFRAULEINを復帰させたいなと思うようになりました。
また、当時はアメリカに自分探しの旅に出てた時期でもあり、そこでアーミッシュという民族に出会いました。アーミッシュは自給自足で馬車に乗っている様な民族。ドイツからの移民である彼らと生活する機会があって、人が本来あるべき姿を見つめ直したり自然との触れ合いをたくさん経験しました。そこからようやくWILDFRAULEINが自然と密接な関係であること、また自分自身がやってきたことが理解できた気がします。

リックやヴィヴィアンのように・・・

ー続いてショップのことをお伺いしますが、その前に少し休憩しましょう。喉も渇いたので。

そうだね、そしたらお茶注いであげるよ。奥さんが作ってるルイボスティー。

(THE VAN)ありがとうございます!すごく美味しい・・・。

本当?きっと、奥さんも喜ぶよ(笑)。お店ではこんな風にお茶とかコーヒーが出てくるし、面白いよね。

(THE VAN)最高です。雰囲気もそうですが、独特ですよね。ざっくりとで構わないですが、どの様なお店なのでしょうか?

BASISは今までのお店の名前UnrealisticReality、villain、Myria、ATELIER71の並びをみてBがいいねって話しました。意外とBASEとかはあるけど、形容詞はあんまり無いかなと思って。僕が始めた10年前はタイトな服装が流行ってたから、その時はやたらお客さんにデカい服作らないんですかって聞かれて。ビスポークやってたから驚いたけど、多分変わる瞬間なんだろうなと思いました。だからBASISはATELIER71でオーダーとして作っていた頃のものを都会に寄せて、お客さんに合わせつつも広げていくこと。そんなベースになることを願って名付けました。

ーお店の内装や棚など、全てご自身で手掛けているということで、どのような世界観やイメージからこの空間は実現しているのでしょうか?

6年前かな?スペインの5つ星ホテルに泊まったんですけど、そこの内装がすごくカッコよかったんですよね。壁の色がブロンズでコッパー色というか、金と銅が混ざっているような色で、しかもメタルだったんですよ(笑)。普通は洋服が目立つようにグレーや白を用いることが多いですが、僕がペインターということもあって空間でも表現したいなと思いました。ですので、ここの壁は藝大出身の先輩に頼んで、会話するように色を塗り合いました。そんな経緯もあって世界観はスペインのホテル、コンセプトはみんなが大事にできる場所。表現したり、展示をしたりね。

ー今まではどのようなお店を手掛けていたのでしょうか?

1番初めの家の前では、さっきも話したように自分の洋服を古着として売って、気づいたら大学生が常連になっていました。若さもありますが、めちゃくちゃストリートな運営をしていました(笑)。でも、外って当然ですけど雨が降るじゃないですか。なので次のお店は、父親のショールームを借りて始めました。そこではヴィンテージとデザイナーズブランドを合わせて着てほしくて始めました。当時はお洒落な人がやってはいましたが、そういったお店は少なかったです。だからすごく流行りましたし、相当バズったんじゃないかな?あるセールの日なんて100人くらい並んでしまって。オープンして2ヶ月しか経ってないんだよ?相当驚いたし、この場所にはもう収まらないと思って、高円寺に移転しました。

(THE VAN)では、ご自身で作ったものを売ることはBasisが初めてですか?

ミックスはしていましたが、それだけを売るのは初めてですね。

(THE VAN)作って売ることで、おのずとお客様との距離は近くなると思います。そんなリアルな声が届きやすい環境でモノ作りを行っていると、作品にも影響してくるのではないでしょうか?

それは大きいですね。そのまま反響が来るので、反省する時もあるし喜ぶ時もあるし。自分の洋服と似ているものとも比較されますし、それはすごく残酷ですよね。その残酷さは一般的に恐れになるかもしれないですが、僕の場合はもっと知りたいって思います。どうしてダメなのか、どうして欲しいのか、それが学びになりますしここで売る意味でもあります。

(THE VAN)そこがご自身にとっての面白さでもあり、魅力でもあり・・・。もう、魅力しかないですね。本日は童話のような、貴重なお話をありがとうございました。

そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございました。

ー最後になりますが、ブランドとして、またお店としての展望や目標をお聞かせください。

ここ1年で自分が作る洋服の幅が広がってきた感覚があります。20代のエゴで作っていた時期と比べて、相手や世間が何を求めているのか、それをある程度取り入れて表現することがやっとできている気がしています。それを実際に着てくれたり、評価してくれることが展望に繋がると思います。僕の洋服は万人受けするようなものではないので、この様な世界観がもっと当たり前になって、リックやヴィヴィアンの様に参考にされるデザイナー、ブランドにしていくことが目標です。

また少しアバウトではありますが、将来に対する不安を抱いている方々と共に洋服の表現で一緒に夢を追って、より良い世界を実現していきたいです。そしてその不安や悩みを解消できて、好きなものも買って帰れる、その日を最高にできる様なお店として継続していきたいです。
 
WILDFRAULEIN
Basis
場所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-27-4



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